産業医が伝えるメンタルヘルス対策の現実と理想

メンタルヘルス不調者の発生は、労働者の長期欠勤をカバーすることが難しい
中小企業に大きな影響を及ぼします。
「対策の重要性をわかっていても、何をどう取り組んでいいのかわからない」、
そのような現実に産業医から理想的な対策や対応などの基本的事項や取り組みのポイントを学ぶ、
産業医が伝える『メンタルヘルス対策の現実と理想』の7回目をお届けします。
生産性の高い、活き活きとした職場づくりの参考にしていただきたいと思います。
毎月20日(予定)に計9回のシリーズで掲載します。

[第7回] 勤務と勤務の間の休息時間を確保するという考え方~勤務間インターバル制度~

執筆:森本 英樹(もりもと ひでき)先生
森本産業医事務所 代表 / 医師 / 社会保険労務士

 「勤務と勤務の間の休憩時間に注目する」という考え方を最近耳にしたことがありますか?働き方改革のニュースを見る中で、勤務間インターバル制度という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。今回はこの制度の概要と医師の目から見た概況をお伝えしたいと思います。

 読者の中には、多忙な業務のため深夜まで仕事をしたこと、徹夜に近い状況まで仕事をしたことがあるかもしれません。その時は気持ちがハイになっていて疲労を感じにくいこともありますが、一方で全く疲れが残らないことはなく、グッタリしたり普段よりも集中力が続かなかったり、ミスが出たりすることもあったかと思います。実際、過去の研究では、睡眠不足が短期的には疲労や判断力の低下につながり、中長期的には抑うつの発症や労災事故、高血圧や糖尿病の増加につながるとされています[①]。また、長時間労働は、脳や心臓・精神の健康にも影響を与えます(第4回コラム)。

 過去、長時間労働の防止策として「残業時間を削減する」ことが行政からも推奨されてきました。勤務間インターバル制度は、この視点を少し変え「勤務と勤務との間の休息時間を確保する」という考えをもとにしています。一例をあげてみましょう。勤務が9時~18時(労働時間8時間+昼休憩50分+途中休憩10分)の会社で残業を4時間しますと退社は22時になります。通勤に1時間とすると帰宅は23時。夕食や風呂などの身の回りのことをした後、1時~7時まで6時間の睡眠をとり、7時半に家を出て9時から翌日の仕事が始まります。土日はお休みとしてこの生活が1か月続きますと、残業時間が4時間/日×20日=80時間/月になり、インターバル期間は11時間(退社の22時~出勤の9時)です。

 他にも、例えば1日の残業が2時間ですと月の残業時間は40時間となりインターバル期間は20時~9時までの13時間です。もし、仮にインターバル11時間を社内で取り決め、ある方が0時まで仕事をした場合、次の勤務は定時の出勤時間である9時からではなく、インターバル期間を確保した11時からになります。

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 実は、EUでは勤務間インターバル制度がルール化(EU労働時間指令2003)されており11時間を守ることが定められています[②]。2017年現在、日本で勤務間インターバル制度を導入している会社は1.4%とそれほど多くありませんが[③]、2019年4月に施行される働き方改革の中で、行政は勤務間インターバル制度の導入を推奨しており、具体的には月45時間以上・年360時間以上の残業時間を超えた場合や高度プロフェッショナル制度を導入した場合の健康確保措置の選択肢に勤務間インターバル制度の導入の普及を促進しています[④]。また厚生労働省がインターネットサイトを立ち上げ、勤務間インターバルの導入事例や助成金に関する情報提供を行っています[⑤]。このサイトには具体的な各社の事例や助成金の情報なども掲載されていますので、関心のある方は一度ご覧になられてはいかがでしょうか。

 労働時間の削減という視点は重要ですが、一方で「本来必要な時間として残業をしていたのに、残業削減のプレッシャーが強く働けなくなった」という声を耳にすることがあります。この議論は今回の働き方改革でも種々議論はされてきましたが、やはり個々の事例・事情ごとに話を進めていく必要があると感じます。勤務間インターバル制度は、前述のように残業時間と表裏の関係ではありますが、「元気に集中して仕事をするために、必要な休息時間を確保することが必要だ」という視点です。このため労使ともに検討しやすい側面もあるのではと産業医の立場から考えています。

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 なお、実際に運用する際には、「総論賛成。各論反対。」にならぬよう、対象者に管理職を含めるか、残業時間の算出をどのようにするか、トラブル発生時など緊急・早急に対応しないといけない場合の例外規定をどう定めるかなど詳細な検討が必要です。規定の策定に際し、社内では対応難しいような場合には、社会保険労務士や弁護士に相談しながら進めていただければと思います。

参考文献

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
  • 第4回
  • 第5回
  • 第6回
  • 第7回
  • 第8回

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