産業医が伝えるメンタルヘルス対策の現実と理想

メンタルヘルス不調者の発生は、労働者の長期欠勤をカバーすることが難しい
中小企業に大きな影響を及ぼします。
「対策の重要性をわかっていても、何をどう取り組んでいいのかわからない」、
そのような現実に産業医から理想的な対策や対応などの基本的事項や取り組みのポイントを学ぶ、
産業医が伝える『メンタルヘルス対策の現実と理想』がスタートいたします。
生産性の高い、活き活きとした職場づくりの参考にしていただきたいと思います。
毎月20日(予定)に計9回のシリーズで掲載します。

[第1回] メンタルヘルス対策のこれまでとこれから

執筆:平岡 晃(ひらおか こう)先生
コマツ 健康増進センタ 産業医
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学 非常勤助教

中小規模事業場のメンタルヘルス対策の背景

 職場のメンタルヘルス対策の進め方について言及している「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が平成18年に策定されてから、すでに10年以上が経過しました。現在では、多くの大規模事業場が、職場におけるメンタルヘルス対策を社員の健康管理活動の中でも特に重要な課題と位置づけ、多くの時間やマンパワー(社内外の専門職)などの投資をしています。その一方で、常勤の産業保健専門職が不在の中小規模事業場では、職場のメンタルヘルス対策に未着手な事業場も依然として多く、職場のメンタルヘルス対策の進み具合は二極化しています。

 メンタルヘルス対策に限らず職場の健康管理活動は、健康障害を防止するタイミング別に一次予防(健康障害の未然の防止、健康増進)、二次予防(健康障害の早期発見・介入)、三次予防(健康障害の再発・再燃の防止、職場復帰支援)の3つの予防策として分類されることが一般的で、健康管理の視点からは一次予防、二次予防、三次予防の順序で進めることが望ましいとされています。しかし、実際には多くの中小規模事業場では、健康障害の事例が発生する前からすべての予防施策を実施していることは少なく、健康障害の事例が発生してから、必要に応じて三次予防を開始するというまったく逆の順序で進められることも多いようです。
中小規模事業場でのメンタルヘルス対策を進める場合のよくあるシチュエーションを以下に示します。

1メンタルヘルス不調者が発生してから事後対応的に職場復帰支援などの三次予防をそれぞれの事例に対して単発で行う。
  • ・メンタルヘルス不調の個別の事例対応が可能な産業医と契約する。
  • ・長期休業者の対応に関しての就業規則や規定を見直す。
2メンタルヘルス不調者が一例発生すると増加する傾向にあるため、一例ごとに時間のかかる単発の事後対応では対応し切れなくなり、早期発見のための二次予防を開始する。
  • ・メンタルヘルス不調を早期発見できるツールを模索する。
  • ・ストレスチェックや過重労働対象者の医師の面接指導実施率向上を目指す。
  • ・社外相談窓口を設置しているEAP機関などと契約する。
3二次予防を開始すると、メンタルヘルス不調者の発生に気付くことが増えてくるため、その発生を根本的に防止することの重要性を感じ、一次予防を開始する。
  • ・階層別(管理職・一般社員向け)のメンタルヘルス対策教育を実施する。
  • ・ストレスチェック後の職場環境改善(社内全体の時間外労働の低減など)を行う。
  • ・事業場トップが健康に関するメッセージを発信する。
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具体的なメンタルヘルス対策

 健康障害の事例が発生してからあわてずにメンタルヘルス対策を進められるように、それぞれのタイミングでどのような活動を行うべきなのか国が示している指針や手引きを参考に以下の表に示しました。

一般的な職場におけるメンタルヘルス対策

  • 予防の種類
  • 具体的な活動内容
三次予防 健康障害の再発・再燃の防止、
職場復帰支援
  • 職場復帰支援プログラム〔1〕を策定する。
  • 職場復帰支援プログラムの策定に伴い、就業規則や社内規定を見直す。
  • 医師による職場復帰の可否判断や適性配置のための面談を実施する。
二次予防 健康障害の早期発見・介入
  • 管理職などのラインによるケア〔2〕でメンタルヘルス不調者を早期に発見する。
  • 事業場外資源〔2〕として、EAPなどと契約し、社外相談窓口を設置する。
  • ストレスチェック後の医師の面接指導を実施する。
  • 過重労働対象者に対して医師の面接指導を実施する。
一次予防 健康障害の未然の防止、
健康増進
  • 事業場のメンタルヘルス対策として「心の健康づくり計画」〔2〕を策定する。
    (事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進することの表明や、体制を整備することなどが含まれる。)
  • 階層別(労働者、管理者など)に必要に応じたメンタルヘルスに関連した教育を実施する。
  • ストレスチェックを実施し、セルフケア〔2〕として労働者にストレスに気付く機会を提供する。
  • ストレスチェック後の集団分析結果に基づく職場環境改善を実施する。
  • 1 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、労働者が休業開始から通常業務への復帰までの流れをあらかじめ明確にし、個々の事業場の実態に即した形で、「職場復帰支援プログラム」を策定する必要性を示しています。
     メンタルヘルス対策に関して何からはじめていいか分からない場合は、この活動から整理するといいのではないでしょうか。
  • 2 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、事業場におけるメンタルヘルス対策として、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフによるケア、事業場外資源によるケアの「4つのケア」を継続的に実施することを推奨しています。上記の医師が産業医として契約している場合、活動内容は事業場産業保健スタッフによるケアに該当します。
     メンタルヘルス対策において医師が関与できる部分は多く、労働者との面接対応やメンタルヘルス対策全般に助言ができる医師と契約できると、活動の質が一気に向上することが多いようです。
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これからのメンタルヘルス対策

 メンタルヘルス対策というと、事業場内のネガティブな出来事を予防する目的で行うというイメージが強いですが最近ではそれを覆す概念も提唱されています。その一つに、ワークエンゲイジメントと呼ばれる概念があります。これは、ストレスを減らすだけでなく、労働者一人一人の個性を生かし、強みを伸ばし、意欲を活性化するなど、より活き活きと自律的・効率的に働くことを目的とするポジティブなメンタルヘルス対策です。
中小規模事業場では、代替要員の余力がなく、少ない人数で最大の成果を生み出さなければなりません。
そのために、病気にならないだけではなく、その一歩先へ進めるメンタルヘルス対策も重要です。
ぜひ、社員の皆さんの働きやすい会社づくりを目指してください!

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