専門家が伝える ケースで学ぶメンタルヘルス対策 第5回

専門家が伝える ケースで学ぶメンタルヘルス対策第5回

ケース
 北村は、44歳(男性・独身)の通信機器の技術作業員である。29歳で中途入社してから現職についている。勤務先は、通信事業者から依頼を受けて通信機器を顧客先に設置する社員数20名の中小企業である。設置依頼やメンテナンス依頼があった場合、顧客先へ伺い直接対応する。北村は、技術知識もあり話しやすいため顧客からの満足度も高く評価されていた。職場でも周りの社員とも積極的に話し、ムードメーカー的存在である。ところが、3ヵ月ほど前から元気がなく口数が少なくなり「もう疲れた」「仕事がしんどい」などと周囲にこぼしていた。また、最近になり依頼のあった顧客からクレームが増えている。調べたところ、そのほとんどが北村が対応した案件であった。ため息をつくことが多く、以前のような周りを気づかい盛り上げる言動は見受けられなくなった。同僚から話を聞くと、最近同居している父親が倒れその介護で悩んでいるとのことがわかった。
留意すべきポイント
○社外または個人で行動する仕事の場合、勤務態度や体調の変化など把握することは難しい傾向にある。会社として、変化に気づくために何か工夫をしていたのか。
○「もう疲れた」「仕事がしんどい」やクレームが増えている、父親が倒れたなど、様々な変化のサインに上司・同僚が気づけていたのか。
○社会問題になりつつある介護離職に対して、会社として起こりうる問題という認識があったか。
社労士からのコメント
大井川 友洋(おおいがわ ともひろ)先生 大井川 友洋(おおいがわ ともひろ)先生
ダン社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士
 常駐でなくとも頻繁に顧客先に出向き仕事をする場合、どのように仕事をしているのかを把握することは難しいでしょう。それでも、朝礼や外出する前後のわずかな時間、打ち合わせなど実際に顔を会わせる機会は工夫次第で意外にあるのではないでしょうか。職場で元気に明るく周りに話しかける人が積極的に話しかけない、顧客からのクレームが多くなったなど、これらは何らかの変化に対する大きなサインです。何が起きているか、確認することも上司の役割です。常に、日頃から職場で気に掛けることが必要でしょう。
 ただ、毎日細かく確認することはなかなか出来ません。それでも、表情はどうか、笑顔はあるか、言葉数はどうか、指示や会話に反応しているかなど上司や同僚が少しでも気にかけるようにすると変化にいち早く気づくことが出来ます。その変化に気づくことが予防・対応の大きな第一歩です。
 また、今回のケースは親族の介護が背景にあるとすると、本人の体調のみならず介護が理由で仕事の継続が困難になる可能性もあります。労働力人口の減少が社会問題となり、採用がますます難しくなる中で離職されるのは会社にとっても大きな痛手です。介護離職は今後さらに大きな問題となり、会社としても時短勤務や在宅勤務など限定的でも戦力として仕事が継続できる多様な働き方への柔軟な対策が必須となります。
 ささいな対応や工夫ですが、日頃から気に掛けて変化にいち早く気付くことで、結果的に予防や対策として大きな効果をもたらすでしょう。
医療職からのコメント
松村 美佳(まつむら みか)先生 松村 美佳(まつむら みか)先生
株式会社東芝ヒューマンアセットサービス
京浜事務所保健センター 産業医
 メンタル不調の早期発見のためには、健常時の本人との『ズレ』に気付く事が大切です。負荷が低い時からため息や弱音が多い方ならそういった性格なのかもしれませんが、今回のケースのように以前と様子が変わった時には要注意です。
 普段から個々の社員の個性を把握し、変化に気付いたらまず声をかけてください。
業務だけではなく自分自身の活気の有無等の状態まで見てくれているという安心感にもつながります。介護を含めた家庭の悩みは一人で抱え込みがちになりより大きなストレスになることが多く見られますので、本人が孤立しないよう常日頃からコミュニケーションを心掛けてください。
 心の不調については主な症状として『気持ちの落ち込み』や『興味の消失』があげられますが、人によっては気分の障害が現れず『イライラしやすい』『いつも何かに追われている』等症状が出る方もいます。また、精神的な症状が一切出ずに『記憶力が落ちる』『集中力が落ちる』等の業務遂行能力の低下のみが見られる場合もあります。
 これまでに比べ業務負荷が変わらないにもかかわらず、悪い変化が見られた時には心の不調も疑ってください。
 心の不調は睡眠の調整や投薬でその症状を軽くすることも出来ます、まず医療機関に相談することも大切です。
 また介護は誰にでも起こりうる問題であり、安易な離職は介護が終わった後の本人の人生に大きな不利益をもたらし得ますし会社にとっても戦力の喪失です。
 それを避けるためにも、健保や行政などの力も借り、介護や教育などのセミナーや相談場所といった情報提供も行うことは、疾病や離職の予防にも重要です。
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