専門家が伝える ケースで学ぶメンタルヘルス対策 第4回

専門家が伝える ケースで学ぶメンタルヘルス対策第4回

ケース
 主に企業内部で開発したプログラムの保守・メンテ作業を行っているIT企業でプロジェクトマネージャーを務める高橋宛に、契約会社I社の開発部長から連絡が入った。「そちらから来てもらっている山内君が、朝から無断で欠勤しているが、どういったことなのか?」とカンカンに怒っている内容であった。電話やメールなどの連絡にも一切反応がないため、その日の夜に高橋が本人の自宅行ってみると電気がついているのにノックや呼びかけにも反応が無かった。とにかく連絡をするようにメモを残しておくと、数日後、山内氏から「気分不安症」で3ヵ月間の休職を要するとの診断書と未払い賃金を請求するとの手紙、出勤簿のコピーが山内から送られてきた。高橋が総務部に確認をすると毎日3~5時間近く残業を行い、休日も日曜日が数日取れる程度であることが分かった。また山内から総務に「時間外労働が多いので人員補給を高橋に相談してもらいたい」といった相談や代休取得の相談のメールが何度か来たため、都度高橋宛に転送したが、高橋は総務からのメールだったため読み飛ばしていたことを思い出した。
留意すべきポイント
○外部で働いている従業員に対して、勤務時間の確認をどの部門がおこなう必要が
あったのか。
○本人からの相談があったことを社内で共有することは出来なかったのか。
社労士からのコメント
若林 忠旨 (わかばやし ただし)先生 若林 忠旨 (わかばやし ただし)先生
社会保険労務士法人
東京中央エルファロ共同代表
 昔からIT業界はメンタルヘルス事案の発生が高い業種であると言われていますが、原因の一つに今回のケースのように受注先の会社にSE(システムエンジニア)などが常駐して仕事をおこなうため、勤務時間などの労務管理が出来ないことが挙げられます。また、客先に一人で作業するようなことも多く、人間関係や仕事量の問題なども一人で抱え込み相談がおこなえないことも多いようです。
 今回のケースも本人より「人員増加の打診」や「休暇取得の申し立て」と原因となるシグナルが出ていたことを直属の上司が把握できなかったこと、総務と上司が情報を共有できなかったことが問題でした。給与を担当する総務だけが時間の把握をおこない、上司は仕事の進捗の把握をおこなうような体制が問題を大きくしてしまったと言えます。単なる日報などの報告だけでなく、定期的な上司との面談機会を設けるなどちょっとした工夫によりメンタルヘルス不調を防ぐことができた可能性があります。
 ケースに出てきた会社のように社内で情報共有が出来ていない会社というものは案外多く、ちょっとしたシグナルを見逃して大きな問題となることが中小企業では多いようです。メンタル不調者に直接対応する問題の解決法と合わせて、社内の風通しを良くして、情報を連携できるようすることも大事だと思います。
医療職からのコメント
錦戸 典子 (にしきど のりこ)先生 錦戸 典子 (にしきど のりこ)先生
東海大学 健康科学部看護学科 教授
 IT企業の場合、社員の一部が契約先に常駐していることが少なくありません。何かと不自由で孤立しやすい客先常駐というストレスフルな環境下で健康を保持しながら仕事を進めてもらうためには、企業として、仕事の進捗管理だけでなく、勤務時間や体調・心理面の確認・支援を含めた労務管理を通常以上に手厚く行える体制を整える必要があります。
 今回のケースでは、本人から勤務時間の報告・相談を受けていた総務部署が、プロジェクトマネージャーに本人からの相談メールを転送していただけで、情報や対策を共有・検討する機会が欠落していたことが、問題の深刻化につながりました。プロジェクトマネージャー側も、総務からのメールを読み飛ばしており、労務管理の認識が希薄だった可能性があります。
 プロジェクトを組む場合は、労務管理を誰が行うのか、企業内での役割分担と連携ルートの確認が大変重要です(客先常駐の場合は、特に!)。また、直属のマネージャーや総務・人事部署以外に、本人が体調・心理面の不安・悩みを気軽に相談できる窓口を設置し、社内に周知することも有用です。
 遠方からでも、メールや電話で保健師などの保健医療職に相談できる仕組みを導入することも望まれます。保健医療職が相談を受けた場合には、本人の思いをしっかり受け止め、必要に応じて情報提供や受診勧奨を行います。また、原則として本人の同意を得た上で、就業上の配慮が行えるように社内の関連部署との連携・調整を行うことが必要となる場合がありますので、日頃から連携ルートを確立しておくことが大切です。会社として保健医療職との契約が難しい場合は、健保組合の支援サービスの活用や、無料で利用できる地域産業保健センターへの相談も検討すると良いでしょう。
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