森 晃爾(もり こうじ)教授が伝える中小企業のための健康経営ゼミナール

執筆 代表・監修:森 晃爾(もり こうじ)先生
産業医科大学産業生態科学研究所 教授

「健康経営の導入は、大企業ではできても、資金も人材も足りない中小企業では難しい」という発言をよく聞きます。
しかし、中小企業では、健康経営の導入が難しいのでしょうか。
私は、中小企業こそ、容易に健康経営を導入することができると思います。
唯一のポイントは、社長がその気になるかならないかです。
「こころの“あんしん”プロジェクト」の新企画として、今話題の健康経営について連載いたします。
毎月1日(予定)に計6回シリーズで掲載します。

[第5回] 健康経営で展開してほしいプログラム

産業医科大学産業生態科学研究所 教授 森 晃爾

中小企業のための健康経営ゼミナールの第5回は、健康経営の具体的な施策についてです。健康経営の施策には、一般にハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチがあります。また、働きかけの対象として従業員の健康管理や健康行動に働きかけるプログラムと、職場環境に働きかけるプログラムがあります。

ハイリスクアプローチ

日本の場合、労働安全衛生法で一般健康診断が義務化されていますので、ほとんどの企業で健康診断は実施されています。この義務は、罰則規定はないものの、労働者にも課せられています。なぜなら、事業者が従業員の健康に配慮して仕事をさせるためには、健康状態を把握する必要があるからです。労働者は、自分が「働けるだけ十分に健康であること」を示すことが求められているのです。まずは、従業員が全員、健康診断を受けているか、確認してください。

しかし、健康診断を受けただけでは、誰も健康になれないことも事実です。その結果に基づいて必要な対応をして初めて健康診断は意味を持ちます。そこで、健康診断の結果で精密検査や治療が必要と判定されたら、必ず受診していただきたいと思います。医師の意見を聴き、必要な対応をすることも事業者の義務ですので、プライバシーの問題ではなく、むしろ積極的に対応して下さい。そして、受診の結果、治療が必要となったら、主治医に「もう来なくてもいい」と言われるまで治療を続けなければなりません。そのような確認も行ってください。

現在の一般定期健康診断は、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管疾患のリスクが高い人を見つけて、早期対応をするためのものです。治療や精密検査が必要と言われるレベルよりも軽い状態の人も、生活習慣の改善が必要な方はたくさんいます。これらの方にもぜひ生活習慣の改善を促しましょう。

このように、集団からリスクの高い人を抜き出して、その人に働きかける方法をハイリスクアプローチといいます。まずは、最低限の健康管理として対応いただきたいと思います。ここまでは、すでにお金をかけて実施している法定健診の活用ですので、追加の費用が必要なわけではありません。

ポピュレーションアプローチ

ハイリスクアプローチは病気の重症化を防ぐことには有効ですが、病気の本質的な予防にはなりません。また、病気を予防することだけでなく、体調不良による生産性の低下を防いだり、高齢化に伴う転倒災害を防止するためにも、集団全体の健康度を上げる働きかけが重要です。これをポピュレーションアプローチと呼びます。

ポピュレーションアプローチと一言でいっても、無数のプログラムがありますので、まずは、職場の健康課題に合った、可能な限り多くの従業員が参加できるテーマで取組むことをお勧めします。その際、健康課題といっても、中小企業では統計分析をしなくても、経営者や担当者の実感をもとにしても構わないことを前回、ご説明いたしました。一般に生活習慣には、運動、栄養、休養(睡眠)、嗜好品(アルコール、タバコ)があります。これらの中から、課題を選択しましょう。

仮に栄養を選んだとします。栄養で気を付けなければならないことはたくさんありますが、職場で取組めるプログラムは限られています。職場で過ごす時間は限られており、できることは昼食のメニューのヘルシー化、飲料の自動販売機のヘルシー化などです。それでも、教育的な配慮を加えることによって、昼だけでなく、朝晩の食事にも注意を払うように促すことは可能です。

運動プログラムにおいては、できるだけ集団の取組を大切にします。ウォークラリーをチームで競わせることによって、より成果が上がりやすくなります。また、お昼休みの体操でも、個人ごとに行うのではなく、例えばホールに集まって全員で行うことによって、職場の活性化に繋がるなどの付随効果が生まれます。

最初から欲張るのではなく、まずは身近なテーマで開始して、健康面やコミュニケーション面で少しでも成果が上がれば、テーマを広げていくといいでしょう。

イラスト画像

職場環境の改善

人の行動は、環境に大きく左右されます。健康経営では、職場環境や制度にも配慮したいところです。たとえば、とても労働時間が長い人に、運動をするように指導しても、そもそも運動する時間もありませんし、むしろ空いた時間は休養に充てるべきかもしれません。いつでもタバコを吸える立派な喫煙室があり、社内にタバコの自動販売機があったとしたら、いくら教育をしても喫煙率は下がらないでしょう。一方で、工場の構内に運動できるスペースがあったり、自転車通勤をしやすい環境や制度があれば、運動をする人が増えるかもしれません。最近、昇降式の机を導入するオフィスが増えていますが、座っている時間が長い仕事は健康に対してマイナスの影響が大きいことへの対策です。

このような職場環境の改善は、トップダウンで行うよりも、従業員がアイデアを出し合って、それを実現することの方がいいでしょう。それによって、現場のニーズに合った改善を行うことができますし、そもそも自分たちの意見が改善に反映することは、職場のコミュニケーションや活力を向上させる効果があるためです。

イラスト画像

最後に

健康経営で展開してほしいプログラムについて、まずはすでに行われている健康診断を十分に活用すること、次に各職場の健康課題に沿った、多くの従業員が参加できるプログラムを実施すること、健康課題の解決を促すような職場環境や制度を改善することを、職場の皆さんで話し合って企画して実行することによって、皆さんの会社も健康経営企業になれるはずです。その際、前回ご説明したように、何か数値目標を立てて、その成否を改善に結び付けることは忘れずに行ってください。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
  • 第4回
  • 第5回
  • 第6回

▲ ページ上部へ