森 晃爾(もり こうじ)教授が伝える中小企業のための健康経営ゼミナール

執筆 代表・監修:森 晃爾(もり こうじ)先生
産業医科大学産業生態科学研究所 教授

「健康経営の導入は、大企業ではできても、資金も人材も足りない中小企業では難しい」という発言をよく聞きます。
しかし、中小企業では、健康経営の導入が難しいのでしょうか。
私は、中小企業こそ、容易に健康経営を導入することができると思います。
唯一のポイントは、社長がその気になるかならないかです。
「こころの“あんしん”プロジェクト」の新企画として、今話題の健康経営について連載いたします。
毎月1日(予定)に計6回シリーズで掲載します。

[第3回] 健康経営に関連する制度と設計図

産業医科大学産業生態科学研究所 教授 森 晃爾

中小企業のための健康経営ゼミナールは、今回で3回目です。第1回は、「何故、今、健康経営か? 健康課題と経営課題」で、健康経営の取組の社会的背景を説明しました。 第2回は、「健康経営が浸透した職場を覗いてみよう!」で、健康経営が浸透した職場と健康管理面で問題を抱えた職場を比較してみました。ここまでの2回で、健康経営が気になっていない方には、今後の話題はあまり役に立たない話かもしれません。

いずれにしても、今回は健康経営に関する制度は、各社でどのような健康経営を期待しているか、制度と設計図との関係、そして中小企業の方が健康経営の導入が有利であることについて説明したいと思います。

健康経営に関連した制度

すでに第1回で触れましたが、国の主導で健康経営を推進するためのいくつかの制度が存在します。最初に導入された制度は東京証券取引所の健康経営銘柄の指定です。この制度は、上場企業を対象としたもので、各社が健康経営度調査票と呼ばれる自記式の調査票に現状を記載して申請すると、後述の枠組みで健康経営度が評価され、その結果に基づき東京証券取引所が各業種トップ企業を「健康経営銘柄」として指定するものです。最初は、1年のみ、または隔年での実施も検討されていましたが、社会の反応が予想以上であったため、毎年継続実施することになりました。もちろん申請をした企業には、経済産業省から項目ごとの偏差値や改善すべき課題などを記したフィードバックが送付されています。

しかし、業種トップということは、ほんの一部の企業しか評価されない制度です。また、上場企業のみが対象ということにも問題があります。そこで、同じころに発足した官民合同の団体である日本健康会議を主体として、一定の要件を満たした法人を健康経営優良法人として認定することになりました。その際、同じ枠組みではありますが、事業規模に応じた基準による大規模法人部門と中小規模法人部門を分けて評価することになりました。

このような制度を設け、多くの企業や法人が認定を受けるための努力をするようになると、結局、評価指標が各社の取組を左右することになります。したがって、そのもととなっている健康経営度調査票の設計は極めて重要になります。つまり、この設計図をもとに各社が取組めば、従業員の健康度が上がり、さらには生産性が向上するといった成果が上がるようにしなければなりません。そこで、健康経営はどのような設計図になっているか、ご説明したいと思います。

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健康経営の設計図

健康経営の設計図は、①経営理念・方針、②組織体制、③制度・施策実行、④評価・改善、⑤法令遵守・リスクマネジメントから成ります。このうち、法令遵守・リスクマネジメントは当然のこととして、それを基盤に四つの要素を構築しながら健康経営を展開することを求めています。具体的には、経営トップが方針を出して、健康経営の取組でリーダーシップを発揮します。また、健康経営の担当者を決めたり、健康管理の専門家を活用したりするなどとともに、上司部下関係も活用して、健康経営を進めます。少し難しいかもしれませんが、健康増進のプログラムには、健康診断などの方法で病気になるリスクが高い人を見つけて対策を立てるハイリスクアプローチと、集団や生活環境に介入して全体の健康度を高める取組であるポピュレーションアプローチがありますので、具体的なプログラムは、その中から各組織の課題に基づいて企画します。ただ、日本には法定の一般定期健康診断がありますので、その活用が前提となります。そして、一定期間ごとに、プログラムはうまくいったか、課題解決が図られたかを評価して、必要であれば改善することになります。これが健康経営の設計図であり、いわゆるマネジメントシステムに相当します。

ただし、健康経営優良法人として認定されるためには、バランスのよいプログラムの実施が求められます。中小法人部門においては、「従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討」に分類された4項目のうち2項目以上、「健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくり」とワークエンゲイジメントの3項目のうち1項目以上、「従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策」の7項目のうち3項目以上を満たすことが必要、といった具合です。

この設計図に則って健康経営が運営されれば、健康経営優良法人に認定されるとともに、前回お示したような「健康経営が浸透した企業」に一歩ずつ近づくことができるはずですので、健康経営優良法人の認定を受けようとする努力は、健康経営の成果を上げるうえで有効です。

中小企業の優位性

とは言っても、人もお金もない中小企業では難しいという話をよく耳にします。それはほんとうでしょうか。私は、健康経営の要素は、考え方によっては、中小企業の方が容易に構築できるのではないかと思っています。

それは、社長がその気になっていれば、健康に関する方針を出すことも、組織体制を作ることも簡単だからです。そもそも組織体制といっても、中小企業であればこそ、経営者自身がリードすればいいですし、経営者の意欲が管理職や一般従業員に伝わるように様々な機会を利用すればいいのです。ただ、産業医等の専門人材の利用は困難ですが、制度・施策実行をシンプルに考えれば解決に糸口があります。

制度・施策実行については、健康診断を利用したハイリスクアプローチと、何か従業員全員で取組める健康プログラムを選び、皆で賑やかに実施するポピュレーションアプローチを現実的な方法で実施します。そして、評価といっても、そもそも人数が少なければ分析結果は大きな意味は持ちませんので、実施した取組を指標化したり、経営者自身や担当者の主観的な評価が価値を持ちます。これらのことは、第4回および第5回にご説明する予定です。

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最後に

健康経営の制度と設計図について説明しました。ここまでで、健康経営の背景はほぼ説明したことになります。次回以降、いよいよ具体的な取組を開始していただくことになりますので、その心づもりをお願いします。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回

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