専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続く新コンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』2回目をお届けします。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。

 毎月10日(予定)に計9回のシリーズで掲載します。

第2回

ワーク・エンゲイジメント~従業員がポジティブに働くために~

丸田和賀子 先生
執筆 : 丸田 和賀子(まるた わかこ)先生
丸田社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士、産業カウンセラー

1. マニュアルはありますか?

 メンタルヘルスの対策においては、以前は病んでいる人を治療することや不調を防ぐこと、つまりネガティブな状態を無くすようなことが主眼点となっていたところ、21世紀に入ってから、社会経済の状況や心理学での研究動向を背景に、より元気に生きることでポジティブな状態を増やす取り組みが行われるようになりました。

 仕事において、ポジティブで充実した心理状態を、「ワーク・エンゲイジメント」といいます。

ワーク・エンゲイジメントには次の3つの要素があります。

 ワーク・エンゲイジメントが高い人は、充実して、仕事に喜びを感じ、積極的に取り組んでいるということです。では、ワーク・エンゲイジメントを高めるにはどうすればよいでしょうか。要因としては、仕事の資源と個人の資源がありますが、ここでは仕事の資源について見てみたいと思います。

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1.仕事の結果について上司からフィードバックがあること

 行動科学では、ある行動に対してのフィードバックと、その行動が増えたり減ったりすることに関係があるとされています。例えば、部下が仕事を頑張った時に、上司がそのことを認めて褒めると部下はますますその仕事を頑張るでしょう。また、部下が失敗をした時に上司が具体的なアドバイスをして注意すると、部下は次からは失敗しないように気を付けるでしょう。

 しかし、頑張っても失敗しても上司からなんの反応もないと、部下は自分から積極的に何かをするという行動が少なくなって行きます。

 ポジティブなフィードバックは、「自分は役に立つ人間だ」「やればできる」という実感(自己効力感)を高めることにも寄与します。自己効力感が高い人は、物事に積極的に取り組むことができるため、成功体験や達成感を得やすくなります。するとさらに自己効力感を高めることができます。

 フィードバックをきちんと行うことに加え、自己効力感を高めるために成功体験を得られるよう、上司が部下をサポートする体制を組織として作るのも大事なことです。

2. 上司や同僚から支援されていること

 上司や同僚からの支援は、NIOSHの職業性ストレスモデルで、ストレスの緩衝要因ともなっています。支援の1つに、相手の存在・価値・行動を「認めている」と相手に伝えることがあります。こういった行動や働きかけを、アメリカの精神科医エリック・バーンにより創始された心理療法である交流分析では、ストロークと呼びます。「人はストロークを得るために生きている」とはエリック・バーンの言葉ですが、ストロークは「心の栄養」とも言われ、人が精神的、身体的に健康な状態を維持するのに必要なものです。ストロークには、握手する、話を聴く、信頼する、そして褒めるなどがあります。

 「褒めることは大切だとは思うが、部下になかなか褒めるようなところがないから難しい」とある管理職に言われたことがあります。部下を褒めるには、部下がどんな人物なのか、何をしているのかを理解していなければなりません。部下のことを、しっかりと見られているでしょうか。また、例え褒めるところが見つからなかった時があったとしても、にこやかに挨拶をしたり、「今日はなんだか調子が良さそうだね」など見た目の印象をそのまま伝えたりすることも十分にストロークとなります。

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3. 組織の価値観と個人の価値観が一致していること

 組織の価値観と個人の価値観が同じベクトルを持っている時にこそ、個人の組織でのパフォーマンスは大きく発揮されます。

 組織の価値観を表す代表的なものに経営理念がありますが、御社の経営理念は、しっかり社内に浸透しているでしょうか。朝礼の時に経営理念を唱和する会社も多いと思いますが、その意味を意識しながら唱和されていますか。単なるお題目になってはいませんか。

 ある会社では、「一流のサービスを提供する」という経営理念を掲げていました。ですが、社長はどうも自分の思いと従業員の思いが同じ方向を向いていないと感じていました。ある時、社長は「“一流のサービス”とはどのようなことだと思うか」と従業員に尋ねました。すると、それぞれ、技術面のことを挙げたり、接客面のことを挙げたり、イメージがバラバラであることが分かりました。そこで、皆で話し合って“一流のサービス”の意味するところを具体的な項目に落とし込んだところ、従業員の行動の基準が揃い、業績も上がったそうです。

 人は、具体的な事柄は理解しやすいのですが、抽象的なことは理解しにくかったり、各自の解釈が違ってきたりします。経営理念はシンプルな言葉で語られることが多いと思いますが、その意味するところを共有できているか、見直してみるのも一つの方法です。

 従業員のワーク・エンゲイジメントが高い状態であれば、個人と職場の生産性が高くなる、離職率が低くなる、心身の不調が少なくなるなどの効果が期待できます。メンタルヘルス対策というと「安全配慮義務等の関係で、メリットは感じられないがやらなければならないこと」というイメージを持つ企業担当者もおられるかと思いますが、従業員の積極性を引き出し、企業の利益に繋がる「前向きなメンタルヘルス対策」を検討されてみてはいかがでしょうか。

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